豊浦のしめ縄飾り

山陰、湯泉津の森山窯の工房にかかっている立派なしめ縄。

島根のお隣、山口県の豊浦という地域で作られていた鶴寿の輪飾りです。

作者は諏訪音松さん(昭和53年当時80歳)と妻のヨシさん(当時75歳)

このおじいさんのことばが印象的だったのでここに引用させていただきます。

「昔は祝儀や婚礼の場合に、小菓子がありまして、それに寿という字が書いてございますな。それを見まして、これをひとつ輪の 中に入れたら、愛用者の気持ちがどんなにか良いのではあるまいかというような気が起こりまして、それをやりました。まあ最初の間はうまく出来ませんでした。字そのものが生きていないようで、少しは曲げて見栄えの良いようにといろいろ考えました。寿というかざりを字に表せば、やはり気持ちがよくなります。」

「悪い身体ながらも、もう少しがんばってみたいと思います。そうして世の人に愛用してもらいたいと思います。私も世間のお役にたてるし、世間の人も割合に値段が安くて、品物がまあ良いなという気持ちをいだかれやしないかと思います。そらで、ちょっとした所は私が気付くなら品物をあげて、あまたの人にこういう品物を作らせたいというのが私の希望です。」

田辺雅章 著『山陽山陰 民芸の旅』(中国電力株式会社広報室、昭和53年)

しめ縄は元々は聖なる場所を示す縄張りであり、魔除けのお守りであり、地方によっては穀物や海産物を添え、新しい年の神様に、家内安全、護国豊穣を祈る風習と伝えられています。諏訪さんは子供の頃から藁細工の制作をはじめ、50を過ぎた頃に写真のような鶴寿の輪飾りなどの伝統的なしめ縄に工夫を凝らしたものを作り始めたそうです。

なんとも力強く、そして繊細さもある素晴らしいしめ縄飾り。

これもまた一朝一夕にはできるものではなく、幼い頃から数十年にもおよぶキャリアとしめ縄作りに対する気持ちが生んだすばらしい逸品だと思います。